ボクよりも後からやってきた本当のよぼよぼのお爺ちゃんたちが次々に診察室に通され、
ボクの順番はどんどん追い越されていった。シルバーファースト的なことなのか?と始めは思ったけど、どうやら彼らは『予約券』なるゴールドカードを持っているようだった。
金のカードも銀のカードもなんなら銅すら持っていなかったボクたちはお茶を飲んだり漫画を買い込んだりして、もはやあってないような順番を辛抱強く待った。
ようやく診察室に入れたのは午後2時だった。セコンドに付いていた次女SP(ストロング
パワー)チャンクもさすがに疲れきっていた。
すっかり出足の鈍い状態になっていたボクたちは、この一週間の積もり積もった思いを
要約してものすごく簡潔に話してしまう始末。それでいいのかオレたち!
対戦相手はDr.トシキ。ボクの話を聞いて「34歳でこの話し方はおかしい。」と言って、
内容よりもボクのロレツの回らなさに注目していた。冷静な男だ。
そしてまた例のゴムか何かでできているトンカチで体中を叩かれた。
ばぃぃ〜ん。ばぃぃ〜ん。ばぃぃ〜ん。ばぃぃ〜ん。
膝のばぃぃ〜んでは勢いよくDr.トシキにキックしてしまうボクの足。
「すみません」と言いつつも炸裂するボクのキックを、よけたり食らったりしながら
ばぃぃ〜んを続けるDr.トシキ。そんな打たれ強い冷静な男・Dr.トシキがある反応を見て
急に慌てだした。
足の裏をかかとから指の付け根までなぞると、親指がピーンと立つ。
なぞってもなぞってもその度に親指は「イェ〜イ!」と言って立ち上がった。
後の説明で知ることになるのだが、これは神経系統がちゃんと機能していない場合にのみ
出る体の反射だそうだ。
その深刻さをまったく理解していなかったボクとチャンクは、面白がって高嶋忠夫の
ものまねで親指とともに「イェ〜イ!」を連呼して笑っていた。無邪気だった。
その後、ボクは緊急でMRI室に送られ、撮影中にやってきた巨大な頭痛の波にあっという間に飲み込まれて撃沈。
MRIの画像が上がってくるのに一時間はかかるとか、ベットが空いてないとかなんとかで、ボクは病院の廊下のソファに放置された。う〜んう〜んと言って痛みでのたうち回るボクの隣でセコンドのチャンクもう〜んう〜んと返してきた。悲しい合の手だった。
ナースたちもできることがなく見て見ぬ振りをするしかないようだった。病院内で救急車を呼びたい気持ちだった。
そんなふうに必死に待ったMRIの画像だったが、またも何も写らなかった。
そのころのボクは左半身の麻痺が特にひどかったので、若年性脳梗塞や多発性硬化症と
いった聞くだけで腰がひけてしまうような病気が予想されたが、右脳にも小脳にも問題は
なかった。そう、もはやこのよぼよぼの原因が薬の効き過ぎという線は消えていた。
予想がはずれたDr.トシキは頭を掻きむしり「難しいなぁ〜」と言って、パソコンの
キーボードを打ちまくっていた。その横顔は、まるで難しい問題を解くことに喜びを覚えた勉強の好きな子どものように、輝いていた。
「トシキくん、キミならきっとその答えに辿り着けるはずだよ」
頭痛でもうめちゃくちゃだったボクは、心の中で少年にエールを送った。
そして血液検査のためにたくさん血を抜かれて帰された。
でも、よぼよぼの原因が神経が機能していないということだけはわかった。
つまりボクはよぼよぼのお爺ちゃんの皮をかぶった無神経な女34歳らしい。
なぜそんな変わったコスプレをしているのか、自分でも全くわからない。
つづく