連日ナース主任に情熱的に気持ちを訴え続けた結果、ボクはついに一日に一回スターバックスに行く権利を得た。やったぜ!
スタバ通いはボクの生きがいとなった。「うんの修行」中のボクには良い気分転換というか良い逃避にもなり、もともとのボクの住む街やボクの日ごろの行動範囲にはスタバがないので、病気をして入院したら思いがけないオプションが付いてきたぜ!やったぜ!というノリで、ボクはせっせとスタバに通った。
病院本館の入り口にあるスタバまで、別館の病棟からエレベーターで降りて渡り廊下を通ってまた降りる。ちょっと遠いその距離もよかった。
毎回、山での修行を終えて下界に降りてくるようなかんじだった。
ボクの修行の山(病棟)は入り口が常に施錠されていて、外からはもちろん自由に入れないけど、内からも容易には出られない(ここが重要!)システムで、つまりは逃げ場がないわけで、つまりはスタバに着いてボクは初めて肉体的精神的に解放されるというわけ。
だから、車椅子を押してボクを下界まで連れて行ってくれる誰かがやってくるのを、毎日心待ちにしていた。スタバに通うようになってから、髪をとかしたりステテコもきれい目のにしたりと、身だしなみにも気を使うようになった。
病室は温度が一定で生きてる気がしなかったので、残暑厳しい午後も、スタバではあえて外のテラス席で直射日光をばんばん浴びながらアイスコーヒーを飲んだ。氷が溶けていくのをじっと見たり、ストローでかき回して氷をカラカラ音を立てたり、そんなのが心地よかった。そこの店員さんたちは気さくで、ボクのようなよぼよぼを見るのにも慣れていて動じず同情もせず、ちょうどいい感じで対応してくれて、何よりいつも楽しそうに働いていた。
それとは真逆で、向かいにある花屋は店員の女性たちはいつも不機嫌で無愛想で、そのせいか植物たちもダレていて元気がなくて、ほとんどが1日2日で枯れるだろうなと思った。向かい同士の店でこの違いは何だ?と思ったけど、辺りを見回すと元気な人もいればお見舞いに疲れてか元気のない人もいた。病院っていろんな人がいるなって思った。
せめて自分は元気な病人になろうと思った。