吉田バビンスキー編 『ステージ』

Dr.トミー、モリー、ジニーは日に何度も診察に来てくれた。惜しくもチーム吉田には入れ
なかったDr.トシキもボクを診に度々寄ってくれた。ありがたいことだ。
主な診察内容は、「尋問・トンカチで殴打・楊枝で刺す」の3つだ。
ボクの自覚できる症状を言葉で伝えて、体中をトンカチで叩いて体の反射を見て(運動神経)、刺激を与えてボクが感じる度合いを見る(感覚神経)。決してSMの話ではない。
運動神経がイカレてるのは入院前からよーくわかっていたけど、感覚神経までは気が回らなかった。ボクはほっぺたから下の感度が鈍く、ほぼ不感症だった。セックスの話でもない。
唯一ちゃんと感じるのはおでこだけだったので、おでこを楊枝で刺してその痛みを10としら他の場所はいくつかを調べられた。
おでこ10、首0、おでこ10、腹4、おでこ10、足2、おでこ10…
といった具合にドクターたちは注意深く体中を刺してくれるんだけど、おでこは10でふつうに痛いってことには注意深くなかった。診察後いつもボクのおでこは赤かった。

ある日、研修医ジニーがにこにこしてやって来て、さぁ行きましょう、とボクを連れ出した。どこへ?と聞いたら「吉田さんは選ばれし患者さんです」という返事。
エレベターを降りて、暗く静かな廊下を、カタカタと音を立てて車椅子で運ばれるボクのそのさまは、まるで「羊たちの沈黙」のレクターのようだった。
着いたその部屋には「大会議室」と書いてあって、会議するなら事前に言ってくれよ、議題は何だ?とふざけてたら、議題はずばりオレだった!ボクの症例をみんなで勉強してみんなで見守って行こう〜みたいなノリだ。
部屋には長い机が「コの字」型に並んでいて、ざっと30人くらいのドクター・研修医・医学生やらがいた。チーム吉田はもちろんDr.トシキもいた。憎っきDr.革靴もいたので一応軽く会釈をしたら、スカした感じでぷいっと無視された。キー!もうオマエ、ほんとに嫌い!頭にきたので、Dr.革靴のピカピカの革靴を思いっきり踏んづけてやった。頭の中で。

そうこうしてたら、脳神経科のDr.ナンバー2と呼ばれる男の診察(もちろん例の3つ、尋問・トンカチで殴打・楊枝で刺す!)が始まり、ボクは大勢の注目を浴びた。
あぁ、こんな大勢の前でこんな辱めにあうなんて…せめて予め知らせて欲しかった…
そしたら、こんな、おじいとおばあのでっかい顔が刷られた黄色の沖縄 Tシャツを着てくることはなかったし、迷彩柄のステテコを履いてくることも、「吉田サウス」と名前の入ったアホみたいな沖縄土産のビーチサンダルを履いてくることもなかったのに…。
ボクは大勢の白衣たちの前で、一人ごきげんな沖縄リゾートファッションな上にノーブラでステージに立っていた。だけどもう仕方がないから努めて堂々としていた。
自慢のバビンスキー反射(足の親指のイェ〜イ!)も堂々と披露してやった。研修医や医学生たちが身を乗り出しておぉ〜!みたいな顔をしているのを見て、「ね!すごいでしょ、ボクのバビンスキー!」とどや顔をしたかもしれない。
Dr.ナンバー2のむちゃ振りにもめげず、渾身のウォーキングや渾身の片足立ちのポーズを
堂々とやってのけ、振り向きざまにウィンクくらいしたかもしれない。なんなら乳首も立ってたかもしれない。焼けくそな気持ちだった。
とにかく、ボクは自分の持ってる全てをステージに置いて来た。悔いはない。

そしてその結果、当初予定していた「3日間連続ステロイド1000mg投与」が5日間に増え
、理由は「重症で、緊急性があって、若くて元気そうだから」ということだった。
すべてがちょっとずつ腑に落ちなかったので腹いせに、ボクのステージを終始ふんぞり返って見ていたDr.革靴に向かって、「よーしオマエ!帰りの夜道はせいぜい気をつけるがいい!」とやっぱり自分の頭の中だけで言い放ち、帰り道にそのピカピカの革靴で犬のウンコを踏み、翌朝はそのピカピカの革靴に鳩フンを何発も喰らってしまえ、と呪いをかけた。
あぁ…もうボクってあまりに無力…

つづく